no.350   2015年5月31日

「 唱歌と賛美歌 」            牧師 中谷美津雄

なやむものよ とくたちて、

めぐみの座に きたれや

 

天のちからに いやしえぬ

かなしみは  地にあらじ

(賛美歌399番1節)

唱歌と言えば、思い浮かぶ歌が誰にもいくつもあることでしょう。私には、懐かしい日本の歌というイメージですが、歴史はそれほど古くはなく、実は西洋の民謡や 賛美歌の曲に日本語の歌詞をつけた歌がたくさんあります。明治政府は欧米列強と対等に肩を並べる国造りを目指して、産・官・学のあらゆる部門で外国人教師を雇い西洋の知識や技術を取り入れました。西洋音楽のためには、米国初等教育の第一人者であったルーサー・W・メーソンを招き、音楽教育の基礎を造りました。メーソンは宣教師を志願した熱心なキリスト者で、ひどい吃音に悩み、宣教師になるのを諦め、音楽で宣教の助けをしたいと考えていた人でした。彼の協力により、1882~1884年(明治15~17年)に出版された「小学唱歌集」全3編91曲のうち15曲が賛美歌であったのも頷ける気がします。
その中のひとつ「蛍の光」ですが、この曲を最近NHK連続テレビ小説「マッサン」のヒロインが歌っていました。この曲は彼女の故郷スコットランドの民謡「オールド・ラング・ザイン(Auld Lang Syne)=古き良き日々」で、讃美歌370番「めさめよ わがたま」です。また、「むすんでひらいて」のメロディーで広く親しまれている曲は、小学唱歌集では「見わたせば」 という曲名で紹介されましたが、それ以前に、讃美歌集『聖書之抄書』に「キミノミチビキ」という歌詞で掲載出版され、歌われていました。(「世界の民謡・童謡ホーム」)
「菊(庭の千草)」はアイルランド民謡「The Last Rose Of Summer(夏の最後のバラ)」で、作詞はトーマス・ムーア1779~1852)です。彼の書いた讃美歌で今も歌われているのは讃美歌399番「なやむものよ、とくたちて」です。米国の著名な讃美歌作家トーマス・ヘイスティングスはムーアと協力して1831年に讃美歌集を編纂し、この曲を掲載しました。生まれつき全身の皮膚の色が欠乏する病気とひどい弱視に悩まされていたヘイスティングスは「天が癒すことのできない悲しみは、地上にありません」と繰り返し歌うこの歌に感動したのでしょう。大塚野百合著「讃美歌・聖歌ものがたり」から原詩の訳文を引用します。
1.悲しむ者よ、悩む者よ、恵みのみ座にきて、ひざまづきなさい。あなたの傷ついた心を開き、悩みを告白しなさい。天が癒しえない悲しみは、地上にありません。
2.不幸なものの喜び、迷っているものの光、悔い改めるものの望みは、消えることなく純粋です!慰め主なる神は、優しく言われます。「天が癒すことのできない悲しみは、地上にありません。」
3.ここに命のパンがあります。神のきよい天のみ座から、泉が流れています。
愛餐に加わりなさい。天が除くことができない悲しみは、地上にないと信じて。・
 懐かしい思いをもって口ずさまれる唱歌が賛美歌の入口となり、讃美歌が証しするイエス・キリストに導かれ、真の癒しと御救いにあずかることができますように。